やさしいベッドで半分死にたい【完】
「藤堂……」
「もう、周って呼んでくれないんですか」
暗がりに月の光が差し込んでいる。世界から隠れて、ひっそりとつぶやいた。あなたに呼ばれたくて仕方がないのだと表現しているなんて、きっと見透かされていただろう。
私の声を聞いた花岡が、たっぷりと三秒私を見つめてから、いたずらを咎めるように、もしくは照れ隠しみたいに私の頬を抓った。
「あんま安心してると襲うからな」
「あはは。花岡さんがですか?」
「南朋でいい」
まさか、そんなふうに返されてしまうとは思わなかった。してやったりと笑う人が、抓った頬を労わるように撫でてくれた。黒い瞳にきらきらと光が浮かび上がる。私の頬に触れる月の明かりをまぶしそうに見つめている気がした。
「南朋さん?」
恋人のような響きで、胸がじんわりと疼いてしまう。どうしてこんなにも、愛おしい人間が生きてくれているのだろう。
「聞こえない」
「ええ? 聞こえていますよね?」
「いや。もう一度呼んでくれ」
「南朋さん?」
「ん」
「南朋さん」
何度か呼んでいるのに、聞こえないようなふりをされた。
くすくすと自分の喉から笑い声が漏れ出てしまった。
きっと、すべて花岡の耳に届いて、聞こえてしまっているのだろう。同じく、喉で笑う声が届いてようやくからかわれていることを理解した。
少しだけ体を起こして、花岡の耳に、できるだけやさしく囁き落とす。