やさしいベッドで半分死にたい【完】
「南朋さん……っわぁ?」
体をベッドの上に戻そうとして、ぐっと引き寄せられた。
目の前に、花岡のシャツが見えている。抱き込まれてしまったのだと気づくまで、すこし時間がかかってしまった。いつも遠慮のない人だ。その力で、すべてを忘れさせてくれる。
「あまね」
何よりもやさしく、うつくしい言葉に聞こえた。どんなうつくしいメロディだろう。
頭にふわりと舞い上がって、花岡の唇が耳に触れたら、散らばってしまった。
「あまね」
「き、こえています」
「そうか?」
茶化したような声で、もう一度私の名前を呼んだ。
この世の奇跡を噛み締めるようなやさしい音色で、耳元に触れる。花岡の熱に抱かれて、何一つ考えたくなくなってしまった。
どんなことからも守ってくれるひとだとわかっている。だからこんなにも安心してしまうのだろうか。それとも、花岡を心から愛しているからなのだろうか。
「もう、悪い夢は見ない」
「はは、預言ですか?」
「ああ。俺が言うんだから、そうだろ」
「南朋さんは、すこし、横暴な時がありますよね」
「あ? んなことねえよ」
すこし不機嫌そうな声に、もう一度笑ってしまった。
やさしい腕は変わらず私を抱きしめてくれていて、花岡の匂いに包まれているだけで、瞼が重たくなってくる。
うつらうつらと意識が浮かび上がるときに、誰かの指先が私の手に触れた気がした。いつもあるように緩く絡まって、誰かの声が遠くに聞こえる。
「側にいる。周、もう、お前の好きに生きていい」