やさしいベッドで半分死にたい【完】
すべてを許してくれた気がした。私に聞かせるつもりなんてなかったのだろう。けれど、しっかりと聞こえてしまった。


私は花岡を騙している。

花岡が開いたドアの音が聞こえるくらい、物音は鮮明に聞こえるようになってきている。自覚しているのに、わざと聞こえないふりをして、花岡の胸に額を擦らせた。

ずるい私を、花岡は愛してくれるだろうか。どうしようもなく悪いことをしている。

夜の優しいベッドで、あなたの腕に抱かれて眠った。

誰かの知る藤堂周なんかじゃない、ただの弱虫の私を、あなたはそっと抱きしめてくれる。


今だけ、今日だけ、花岡のやさしさに縋りつくことを許してほしい。


「明日、たのしみですね」

「ああ。治ったらまた聴けるように、音源でももらっとく」

「……ありがとうございます」


細やかな嘘で、心臓がちぎれてしまいそうだ。

やさしく誠実でいてくれる人を騙している自分に吐き気がしてくる。あなたの愛にかなうような人間になりたい。

どうあっても、それは藤堂周という、つめたくさみしい生き方の人間には似合わない。


花岡は、どうして私を見つけてくれたのだろう。

私の演奏を車で聴いてくれていた。思い返して胸がくるしくなる。

ピアニストとしての私にどれだけ期待してくれていたのだろうか。もう、触れようとするだけで指先が震えあがってしまったなんてことを知ったら、花岡はどんな顔をするだろう。


想像したくなくて、瞼を強くこすり合わせた。どんな私でも、花岡は大切にしてくれるだろう。

けれど私は。私が、本当にしたいことは――。
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