やさしいベッドで半分死にたい【完】

「花岡さん、そろそろ……っわ」


呼びかけているうちに、背中に回っていた手に力がこもった。

気づいたときには、すでに花岡の胸に額がこすれている。つよく抱きしめられているのだと気づくまでに、すこしだけ時間がかかった。その隙に、花岡の顔が私の左耳に触れる。


「あまね」


起き抜けとは思えないくらい、はっきりとした音程だった。

吹き込まれた瞬間に肩が上ずって、反射的に両手で花岡の胸を押した。けれども、何の効果もないまま、もう一度抱きなおすように腕に力をこめられる。


「はな、」

「南朋」


簡潔にとがめられた。その声で、何度もためらった言葉を囁くことが、許されたような気がしてしまった。

そうか、あれは夢ではなかったのか。うまく答えられずにいれば、後頭部をやわく撫でつけられる。


「さっきは呼べてただろ」

「お、きてたんですか」

「寝てるとは言ってない」


なんだか揚げ足取りをする子どもみたいな言い方だ。唖然としていれば、胸に押し付けられている顔を上げさせるように、頬に触れられる。


「あまね」

「……はい」

「呼んでくれないのか?」

「……南朋さん?」


まるで、心から名前で呼ばれるのを待っていたみたいに言ってくれる。けれど、花岡はそんなことを待ち望むような人には見えないからおかしい。
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