やさしいベッドで半分死にたい【完】
結局、私の分として盛り付けられた朝食の三分の一以上が花岡の胃袋の中に納まってしまった。
当然のように湯飲みを渡される。たっぷりと朝食を摂ったら、必ず温かい煎茶を出してくれる。花岡はいつも当然のようにそのお茶をゆっくりと飲みながら、私の顔を見つめている。
私が飲み終わる頃合いを見計らっているのだ。そういう細かい気遣いにすべてをゆだねている自分が嫌になる。
じっと見つめれば、首をかしげてくれる。花岡のような精悍な顔立ちをした男性が可愛らしく首をかしげているところを見ると、わけもなく胸がざわめいてしまう。それが、私のためだけの仕草だと思い込んでしまうと末期だ。
丁寧に顔を近づけて、耳元に寄せてくれる。
あと何回、あと何秒、こうして花岡の呼吸の神秘に思考を巡らせていられるのだろうか。
「どうした?」
「……いいえ。お腹いっぱいだなあと思いまして」
「そうか。お前はもうすこし食ったほうがいい」
「ふふ、おばあさんのおかげで、丸くなりました」
「どうだか?」
躊躇うことなく頬に指先が触れた。ちらりと前の席に座っていたおばあさんを見ようとしたら、すでにその場からはいなくなってしまっている。
なんだか、そういう空気を読まれてしまっているようで、くすぐったくなってしまった。