やさしいベッドで半分死にたい【完】
花岡の背景にいくつもの景色が流れていく。
宣言した通りまっすぐに見つめていても、花岡は照れることなくまっすぐに前を見据えていた。ときどきハンドルを握る指先が軽いリズムをとったり、ちらりと私を見つめてみたり、ただそれだけを繰り返していた。
自分自身が演奏する音源をこんな風に慈しむ人がいるのだとは知らない。
まるで、当たり前の生活の中で消費してくれているところに偶然居合わせてしまったような心地だった。言い知れない何かがある。
ずっと待っていてくれた。けれど、ずっととはいつからいつまでのことだろうか。
好きだと言ってくれた人たちのすべてを愛し続ける方法があればよかった。今の私には、もう何もない。
瞼を擦り合わせるようにきつく瞑って、小さく息を吐く。
期待に応えられない自分と向き合わざるを得ない現実が、たまらなく恐ろしいのだ。
花岡は、きっと、私がすべてを諦めて捨ててしまったとしても、呆れたり、怒ったり嘆くことをしないだろう。
あくまでも私を尊重して、そっと蓋を閉じる。二度と、私の前でその曲を慈しんでくれなくなるかもしれない。
私が、恐れているから。