やさしいベッドで半分死にたい【完】
どうしてこんなことになっているのだろう。何度考えても複雑怪奇で、すべてを理解することなどできそうにもなかった。
ただ、今私の目の前に花岡がいる。
ガラス越しに、こちらを見遣った花岡と目が合ってしまった。吃驚して、そのまま首を傾げられては目をそらしてしまう。それでもどんな反応をされているのか一切わからない無音の世界におそろしくなって、結局花岡のほうへとそろりと視線をつなげてしまった。
目が合った一瞬で、左手が伸びてくる。
ずっと見られていたのか。直感して、柔く撫でられる感触に、なぜか泣きたくなってしまった。
私の頭を撫でようとする人は、どこにいただろうか。
もうずいぶんと前の記憶のような気がした。少なくとも、日本にはいない。
この場所は、私の父と母の生まれ故郷のはずなのに、私にはひどく遠い。いつもあこがれてはいたけれど、決してやさしくそばにいてくれることはなかったかもしれない。
それでも、ウィーンに帰りたいと思ったことはなかった。
故郷というものにあこがれている。私にとってのそういう存在は、この世界のどこを探しても見当たらない。
いつもどこかを転々としていて、落ち着ける場所はなかった。ひどく寂しい人生だということに気づいたのも、貴女の存在があったからだ。