やさしいベッドで半分死にたい【完】
「南朋さんは慣れているかもしれませんが、私は初心者です」
「口説かれ慣れてるだろ?」
「はい? 全然、ですけど」
「……お前は鈍感だった」
「南朋さんの呆れ顔には、敏感です」
「呆れてる理由には鈍い」
「そんな」
「どっか行っちまいそうだ、いつも。繋ぎ止めるための言葉になるなら、何度でも言う」
好きだ。
まるで流れ星を撃ちぬいて、飛び散った宝石を両手いっぱいに抱えて、ためらうことなく目の前に差し出してくれているような瞳だ。大切なたからものを、いくらでも渡してくれる。どうしてこうも、まぶしいのか。
「どこにも、行かないです」
震えてしまいそうな息を繋いで、ゆっくりと吐き出す。そのうつくしいかがやきに、触れてしまっていいのだろうか。
何度も考えている。
おそるおそる手を伸ばした。急かさない。いつも、私の意思を尊重している。目の前でまっすぐに、手を差し出してくれている。けれど受け取るかどうかは、私次第だと示してくれているのだと思う。
「はぐれたりしないか?」
「南朋さん、背が高いから。見失ったりしないと思いますよ」
「思いますよ、じゃあ困るな。今日も手は繋いでおいてくれ。勝手に心配する俺のために」
さらりと髪を撫でる。どこまでもスマートな理由に静かにうなずいていた。
駐車場の少し先に、ライブハウスのような施設が見えている。ぼうっと見つめているうちに、花岡が慣れた様子で助手席の扉の先へと現れた。呆然としているうちに、また先回りされてしまったらしい。
「あまね」
当然のように差し出された指先に、抗う理由など一つもない。ゆえにくるしんでいる。