やさしいベッドで半分死にたい【完】
ライブハウスに入るのは初めての経験だった。すでに何人もの人たちが外で列を作っている姿を見た時には、唖然としてしまった。
まさか、こんなふうに寒空の中でも待ち続けているのか。驚いて足を止めた私に、花岡は合点が行ったようで「クラシック以外は、だいたいこんなもんだ」と囁きかけてくれた。
「どこに並べば、いいんでしょうか」
「こっちだ」
列があるほうとは真逆に進んでいってしまう。迷いない花岡の歩みは、まるで何度もこの場に来たことのある人のような足取りだった。とてもよく、慣れている。
改めて、まったく違う人生を送ってきた人なのだと思う。花岡には、帰るべき場所があって、私には知らない青春時代がある。交わったのは、たったの1年だった。知らないことのほうが多くて当然だ。
その人生に、つよくあこがれたり、嫉妬のような感情を覚えてしまうなんて馬鹿げている。
握られた指先をじっと見つめていた。今日で終わりにするなんて唐突に決めたけれど、どうして切り出せるだろう。花岡は、きっとこの先も私のそばで、私が逃げ続けるために自分の時間を使おうとしてくれるだろう。
「弟の知り合いらしい」
「はい?」