やさしいベッドで半分死にたい【完】
立ち止まった人が、目の前のスタッフと二、三言話してからこちらを振り返って告げてくれる。今日の公演をするアーティストのことなのだとわかった。頷いてから、こんなにも有名な人と知り合えるような弟の顔を思い浮かべている。
双子と言っていたからには、とても似ているのだろう。
「どうぞ、お進みください」
知り合いともなれば、特別に入ることができるのはだいたいどこも同じだ。けれど、まさか自分がそれにあたるとは思いもしなかった。わずかに反応が遅れて立ち尽くせば、花岡がもう一度振り返った。
「周?」
「ものすごい待遇で……、おどろいています」
「そうか? お前、すぐに風邪引きそうだしな」
花岡の前で何度か倒れている実績があるから、つよく言い返すこともできずに黙り込んでしまった。また、花岡はどこまでもスマートに物事を運んでしまっている。到底かなわない相手だ。
握りなおされた指先に熱が触れる。さっきまでのつなぎ方を改めて、絡めるようにつなぎなおされた。
「何考えてる?」
「南朋さんのことですよ」
「そりゃいいな」
どうやっても夢中にさせられてしまう。
屋内の二階までの階段を上ってみれば、音響とカメラがセッティングされているのが見えた。基本的に一般の観客は二階には上がらないものなのだろう。
いくつかの椅子が置かれているのが見えた。花岡はとくに断りを入れることなく席を選んで、横に私を誘導した。座り込んだところで、下のホールに人がなだれ込んでくるのが見える。
ちょうど開場したところらしい。