やさしいベッドで半分死にたい【完】
当然の問いかけだった。その言葉に、どう自分を取り繕えばいいのか、よくわからない。
会場は薄暗くて、私が誰なのかよくわからないようにしてくれている。二階席でなかったら、私はどうしていただろう。
私は何者なのだろう。
花岡が、すこし躊躇ったのが見えた。私と花岡の関係は、どんなものだろう。元マネージャーと、元ピアニスト。それ以上でも以下でもない。今は、私のわがままに付き合っているだけだ。急激に現実が突き刺さる。
「……いや」
「ふぅん? こんばんは。ナオの弟です。……南朋、いい男ですよ~?」
「眞緒、彼女は耳の調子を崩してる」
「え、マジで……、あれ、どっかで……」
まじまじと見つめられた。凍えてしまいそうな心地のまま、偽りのない、まっすぐな瞳に晒されて狼狽えている。
花岡の弟が何かを口遊もうとしたとき、小気味よく、頭を叩く音が鳴った。
「眞緒、不躾だ。……西谷さんも困ってる」
「え、ああ……、悪い悪い。可憐、あっち座るか」
「あ、うん……、じゃあ、失礼します」
「ああ」
明らかに私が誰なのかわかってしまった顔をしていた。
花岡の弟なのだから、誰のマネジメントをしていたのか知っていてもおかしくはない。ましてや花岡は、あのメールを送り続けてくれていた人のはずだ。
これだけ仲のいい二人なら、きっと私の存在くらい知り合っているだろう。なんとなく直感していた。