やさしいベッドで半分死にたい【完】
きらきらちらばる、ほしのなみだ


一階席はすでに超満員だ。

すし詰めのようになって、それぞれがアクターの登場を待ち構えている。あたりは緩やかなジャズテイストの曲が流されていて、薄暗い。自分が立っていたような舞台とはまるで違う。同じ音楽でも、こんなにも異なるものなのか。ただ驚いていた。

飲み物を片手に持っている人がいれば、開演までの時間を隣の人と会話しながら待ち構えている人たちもいる。

全員、このステージに立つ一人を待っているのだと思うと、不思議な感慨があった。思えば、私は、こうして観客としてステージを見ること自体が初めてだ。コンクールや演奏会で、自分の出番ではないときにちらりと上から覗いたことはあっても、観客であったことがない。また一つ、花岡から与えられているのだと改めて認識している。

いつも与えられるばかりだ。

花岡が出て行った扉のほうを振り返って、綺麗にスーツを着こなした男性と目が合った。私を見て、一度目を瞬かせてから優しく笑っている。出会ったことのありそうな顔をされたけれど、まさか、会ったことのある人とは思えなかった。首を傾げれば、迷いなく目の前に来てしまう。


「こんばんは」


親しげに声をかけられた。思わず同じように「こんばんは」と返して、口を噤んだ。聞こえないふりをしている途中だったことを思い返して心が捻じれてしまった。
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