やさしいベッドで半分死にたい【完】
「そうなんですか。それはいいですね」
「良いですか?」
「はい。だって、これから世界の最高を聴けるんですから、明日からはもっと最高の人生になりますよ」
断言して笑った。瞳は、すこし茶化しているようにも本気のようにも見える。
こんなにも、音楽を愛してくれる人がいるのか。なぜかそれは、まっすぐに私の胸にもしみ込んでくる。不思議な人だった。
「そうですね。それは最高だとおもいます」
真剣に頷き返したら、子どものようにまっすぐな笑顔を見せられてしまった。
かっちりとスーツを着こなした仕事のできそうな男性が、こんなにもとろけそうに笑っている。どうしてこんなにも好きなのだろう。
彼の言葉を聞いているだけで、このさきに在る人を愛せてしまうような気がしてしまった。
「きっとayaさんも、あなたみたいな素敵なファンの方がいて、うれしいと思いますよ」
どうしてこんなにもまぶしいのか、声に出してはじめて気づいてしまった。
その先にある人の感情を知っている。私も、同じ目で見つめられた経験があった。
この瞳で見つめてくれる誰かを、精いっぱい大切にしたいと思っていた。いつも何かをできていればと願ってやまなかった。
けれど、全部、できなくなってしまった。