やさしいベッドで半分死にたい【完】
じゃあ、私が藤堂周ではなかったとしたら、花岡は、見つけてもくれなかったんじゃないだろうか。
大切にしたいと思っていた。その瞳にかなう何かであり続けたいと思っていた。
そっと指先に触れられる。まるでそうあることが当たり前みたいに指先がつながった。
まっすぐに一階を見下ろす瞳を確認して、同じように見つめた。
ライティングされたステージで、女性がまっすぐに前を見つめている。誰もが固唾を飲んで見守っていた。やさしく鳴り響く音で、胸が潰れてしまいそうになる。
うつくしい声だった。
時間の感覚が遠ざかって、すべてから切り離されてしまうような心地がする。誰もが目を離せない世界の中で、ふと、自分の瞼が濡れていることに気づいた。
どうして涙が出てしまったのか、よくわからない。下睫毛に引っかかった涙がぼろりと落ちる。その音が鳴ってしまったのだろうか。
花岡が振り返って、やさしいまなざしのまま、指先で瞼を撫でつけた。
永く短い時間を歌い切った人が綺麗に頭を下げてステージ脇にはけていく。ちらとさっき会話した男性を見てみれば、瞬きすらも惜しむようにまっすぐにステージを見つめ続けていた。その視線一つで、肺に溜まった熱がはじける。
もう一度涙がこぼれ出て、今度こそ花岡の声が耳に擦れた。