やさしいベッドで半分死にたい【完】
これしかなくて、私の生き方は、もう、ここにしかなくて、ただ、どうにか食らいついていくしかなかった。今もそうだ。

逃げ出したいと願って、花岡を道連れにした。そのくせに、何一つ変えることもできないまま足踏みし続けている。

花岡のやさしさを踏みにじって、私は何一つ変えられないまま息を続けてきた。

なぜこんなにも恐ろしいのか、答えが膨れ上がってきてしまいそうで、瞼を閉じる。どうにか呼吸を整えて、息を吐いた。


何も考えたくない。

ぐるぐると回り続ける思考をやり込めて、瞼を開いた。扉にかけられている鍵を開けて、手洗い台の前まで歩く。

随分と泣いてしまった。けれど、そこまで顔色はひどくない。ほっとして、意味もなく流れる水に指先を浸した。

ほとんど何も言わずにそばを離れてしまった。花岡は、きっと困惑しているところだろう。覚悟を決めて、もう一度鏡を見る。

ちょうど横に立っていた女性が、まじまじとこちらを見つめている。ふいに視線が絡んでしまった。

息をのんだその人が、今度は鏡越しにではなく、しっかりとこちらを向いて、まっすぐに見つめてくる。その瞳の熱に、胸が騒がしくなる。


「あの……」


今の自分には、どうしようもなく不適切な、やさしい瞳だった。
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