やさしいベッドで半分死にたい【完】
まだここに、藤堂周が残っていたのか。

自嘲しかけている私なんて知らないその人は、またしても小さく息をのんで、ゆっくりと指先を差し出してくれる。わずかに触れて、しっかりと結んだ。

花岡の大きな手とは違う小さな指先は、とてもあたたかかった。まるでこの人の心のようだと思う。胸に灯って、顔が勝手に静かに微笑んでしまっていた。

慣れたように体が反射したのか、本当にうれしく思ったのか、わかりそうにもなかった。けれどその人は、私の表情を見て、とうとう大粒の涙をこぼれ落としてしまった。


「あ、あの、大丈夫ですか」


おそるおそる声をかければ、ますます涙が止まらなくなってしまう。ぱっと手を放せば、胸を押さえるようにシャツを掴んで俯いた。


「ああ、会えてよかった」


私に告げるつもりではなかっただろう。静かに吐き出された言葉は、何よりも綺麗だ。左胸の真ん中に静かに突き刺さってしまう。この人は、藤堂周という人間をよく知って、大切にしてくれた。


「ずっと好きで……、あなたのおかげでピアノに出会えて」


この人の人生のどこかに触れて、その行動の理由の一つにもなった。今も大切にしてくれているのだろう。

その胸を押さえるやさしい指先のように私の存在を抱きしめて、一目見て笑いかけられるだけで涙を流してしまうくらいに愛してくれている。

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