やさしいベッドで半分死にたい【完】
私は日本語よりもほかの言語のほうが得意だし、花岡はいくつかの言語を習得していると聞いたことがある。


けれど道は、そう遠くまでは運ばずに、私たちをまっすぐに連れ出していく。


少し前の妄想にただ一人で笑ってしまった。パスポートすらも持たない私を、この国から連れ出すなんて不可能だ。


どこまで逃げ出したかったのだろう。でも、どこまで行っても逃げきれない。

だから苦しんでいる。



何一つ変わらないハイウェイの景色を抜けた。

途端に緑豊かな自然が視界を覆ってくる。わずかに眠気を感じて、うつらうつらとしているうちに、瞼にやさしい熱が下りてくる。あたたかい指先に、さえぎられてしまったのだと気づいた。かすかに耳元に囁きかけられる。


「ついたら起こしてやる」


その声に、なぜ私は安堵してしまえるのだろう。





夢の中の自分は、いつも何かに追い詰められている。強迫観念がそうさせているのかもしれない。わかっていても夢は不自由なものだから、夢と呼べるのだ。

私にできることは何もなく、ただ見つめていることしかできない。

ひどく懐かしい夢だった。それは過去の出来事の焼きまわしで、私の目の前にいる花岡は、ついさっきまで私の隣にいた人とほとんど同じだ。

少し若いのかもしれない。まじまじと見つめたことはなかったから、細部まで表現できているわけもなかった。
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