やさしいベッドで半分死にたい【完】
放り出してきた曲のことなんて、思い出すこともなかった。思い出したくもなかった。だから、あえて蓋をして隠していた。
このまま忘れてもいいとさえ思ったこともあった。
でも、だめだ。絶対に誰かを傷つける。そうしてきっと、花岡の誠実さに泥を塗っただろう。
どうしても耐え難くて、息を吐き下ろした。
「花岡さん」
呼ぶたびに溝が深まって、壊れてしまいそうな気がした。まっすぐに私を見つめる瞳は何も言ってくれない。ただ、私の夜に滑るような声を聞き取って、じっと見つめていた。
「私……」
何を告げようと思っていただろう。
一階のホールへと続く扉が開いてしまった。ちょうど閉演してしまったらしい。振り返っているうちに、指先に熱が触れる。
その指先が熱を失って、真っ青になっていることに気づかれたくなかった。一瞬で弾くように振り払って、胸に何かが突き刺さる。
「あ……」
花岡の瞳に、暗い影が差したように見えた。
明確な拒絶を打ったことに気づいて、やりきれなくなる。本当は、その胸に泣きついてしまいたい。けれど絶対に、もうやってはいけなかった。
花岡の人生を、巻き込んではいけない。
このいばらのような道に、抱き込んではならない。以前にも思ったはずなのに、どうして私は縋りついてしまったのだろう。
きっと、4年前の別れの瞬間には、私は花岡を愛してしまっていた。気づいてはいけない事実だった。
このまま忘れてもいいとさえ思ったこともあった。
でも、だめだ。絶対に誰かを傷つける。そうしてきっと、花岡の誠実さに泥を塗っただろう。
どうしても耐え難くて、息を吐き下ろした。
「花岡さん」
呼ぶたびに溝が深まって、壊れてしまいそうな気がした。まっすぐに私を見つめる瞳は何も言ってくれない。ただ、私の夜に滑るような声を聞き取って、じっと見つめていた。
「私……」
何を告げようと思っていただろう。
一階のホールへと続く扉が開いてしまった。ちょうど閉演してしまったらしい。振り返っているうちに、指先に熱が触れる。
その指先が熱を失って、真っ青になっていることに気づかれたくなかった。一瞬で弾くように振り払って、胸に何かが突き刺さる。
「あ……」
花岡の瞳に、暗い影が差したように見えた。
明確な拒絶を打ったことに気づいて、やりきれなくなる。本当は、その胸に泣きついてしまいたい。けれど絶対に、もうやってはいけなかった。
花岡の人生を、巻き込んではいけない。
このいばらのような道に、抱き込んではならない。以前にも思ったはずなのに、どうして私は縋りついてしまったのだろう。
きっと、4年前の別れの瞬間には、私は花岡を愛してしまっていた。気づいてはいけない事実だった。