やさしいベッドで半分死にたい【完】
凍り付いた指先を握った。泣きたいなんて、気づかれてはいけない。
夜に紛れて、もみ消してしまえ。一人で思い込んで笑った。
「大丈夫です。頑張れます」
必死でつぶやいた。私の声に、花岡の眉が寄ってしまう。これ以上見つめあっていたら、また情けない言葉が飛び出してしまいそうだった。
「俺が言いたいのは……」
花岡が言いかけたと同時に、車から、何かの音が鳴り響いた。ちらりと視線をよこせば、後部座席で何かが光っている。その音に聞き覚えがあった。
花岡は、私から携帯をとり上げて、車の後部座席に置いていたらしい。まるで、現実を知らせるアラームのようだった。
もう一度花岡を見つめなおした。
言いかけた言葉を聞いていたら、きっと泣き出してしまっていただろう。だから聞かない。勝手に決めて、頬に笑みを張り付ける。
「もう、携帯返してください」
「……藤堂」
「私、大丈夫ですから」
動いてくれない花岡の代わりに、勝手に後部座席を開いた。画面には、仕事のやり取りをしていた相手の名前が光っている。
現実が指先に戻ってくる。
生を失っていそうな手で画面に触れて、問題なく作動する器械に笑ってしまいたかった。
もう、終わり。
『藤堂さん!? よかった! やっと連絡が取れました。この間の曲、そろそろ仕上がってるかと思って』
矢継ぎ早の声は、きっと花岡にも届いていただろう。
まっすぐに私を見つめている気配がしても、振り返ることはなかった。みっともないくらいに指先が震えていることに、気づかれるわけにはいかなかったから。
「はい。すみません。すぐに送ります」
あなたがすきだよ。だから、もう、これ以上縛り付けたりしない。