やさしいベッドで半分死にたい【完】
抱きしめるように、そっと触れている。
何も言わなければ、知らないふりを続けていれば、花岡は、今日もこのベッドの上で、私の髪を撫でてくれていただろう。そのやさしいまなざしを思い返して、たまらなく泣きたくなってくる。
今日で終わり。
何度も決めて、声に出す準備はたっぷりと整えていたはずだった。それなのに、結局私は、他の誰かの言葉に揺さぶられて、手を放しただけだ。
何一つ自分の意思で動かせていない。花岡には、気づかれてしまっただろうか。
明日には、現実に帰る。
花岡に迷惑をかけた分、たくさんお礼を言って、できることをしなければならない。花岡がどれだけ私の音楽を心待ちにしてくれているのか、知っている。だから、踏ん張らなければならない。
私はもっと頑張って、期待に応えなければならない。
花岡に会うだけで決意が揺らいでしまうから、もう、会ってはいけないのだと思う。
もっと強くなろう。
立派な人間になる。そうして、花岡を安心させなければならない。
きっと難しいだろう。潰れてしまうかもしれない。
もう、潰れてしまいそうだ。でも、もう一生花岡に縋りついてはいけない。花岡は、私なんかじゃなく、もっと素敵な人と出会って、やさしい生活を知って、結婚して、子どもに囲まれて、幸せな家庭を築くだろう。