やさしいベッドで半分死にたい【完】
花岡南朋という人のことを考えるのは、もうやめよう。だって、今もまだ、こんなにも好きだ。諦めるなんて到底できない。

せめて、花岡が愛してくれた私の音楽を、続けていくことくらいしかできない。


「っう、ぅう……」


嗚咽がとまらなくなって、とうとうベッドから降りる。足をスリッパに入れて、ゆっくりと息を吸い込んだ。

花岡は隣の部屋で眠っている。

夜も更けてしまった。きっと、眠ってくれているだろう。言い聞かせるように思っていた。呼吸を止めて、静かに廊下に出た。月に照らされた廊下を滑るように歩いて玄関へ出る。

気づかれなかったことを喜ぶべきなのに、どうしてか落胆しそうな自分がいた。恋の病は厄介で、私には、手の打ちようがない。花岡が相手なら、なおさらそうだろう。どうやっても好きにならざるを得ないような魅力的な人だ。

パンプスに足をのばして、ゆっくりと学校から出る。花岡から離れて行動すること自体がはじめてかもしれない。もう何度も手を引かれながら歩いたくせに、指先がさみしい。

ないものねだりばかりの自分に嫌気がさして、静かに深呼吸する。秋の満月を胸いっぱいに吸い込んで、ようやく流れて止まらない涙が乾き始めてくれた気がした。

一歩ずつ歩く。

行く先も決めぬままに歩いて、電灯のひかりを踏んでいく。
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