やさしいベッドで半分死にたい【完】
「傘……! ナオ先輩が一本で良いとかクソみてえなこと言うから、一番でかいやつにしたっす! 襲われなかったっすか?」
「襲われ……?」
「アキオ、あんま言うとマジでシバかれるからな?」
「こわっ」
「とにかく、周ちゃん、よかったなあ~。耳ちゃんと治って」
「あああ! 俺、もう、めちゃくちゃ心配で……、毎日神棚にビール捧げたっすよ。治ったのか~! マジでよかったっす……! ナオ先輩から聞いたときは、ずーん、みたいな、マジで世界滅亡って感じで……」
「アキオ、ほんとお前うるせえ」
げんなりした森山が目の前の缶ビールを煽ったのが見えた。目の前に一つ渡されて、とりあえずテーブルの上に置いてみる。
こんなふうに誰かと家でお酒を飲む機会もなかった。知らないことばかりがあったのだと気づいてしまう。アキオと森山は、私がそんなことを考えていることも知らずに、ぎゃあぎゃあと騒ぎあっては笑っていた。
誰一人、私の涙の理由を問いただしたりしない。
「アキオ、さん? ですよね。ありがとうございます。大切にしてくださって」
そっとつぶやいたら、アキオは見る見るうちに瞼に涙をためてしまった。初めて会った日にも泣きそうな顔でこちらを見つめていたから、情に厚い人なのだと思う。