やさしいベッドで半分死にたい【完】
「出会えてよかったっす。マジで……、ナオ先輩に教えてもらったんすよ、周ちゃんのピアノ」

「あー、そうだよな~。あいつ、周ちゃんのピアノ、めちゃくちゃ好きじゃん」

「俺も負けないっすけど、ナオ先輩は別格っつうか……、あれはもう、執念」

「執念……?」


頬が赤らんだ二人が、機嫌よくしゃべっている。おばあさんは台所でつまみになるものを作っているようだった。

繰り返して口に出せば、機嫌のよさそうなアキオが、口を開く。


「ゴリゴリの不良やってた男が、いきなり髪真っ黒にして学校行き始めたっす。初めのほうは、ナオ先輩の気まぐれかってみんな笑ってたっすけど、卒業したら東京の大学行くとか言い出して、大騒ぎ」

「あ~、懐かしいな~。あれはマジでビビった。大学? ってなんだテメー、喧嘩売ってんのかァ? みたいな男がいきなり東京の大学って! 笑ったよなあ。理由聞いたらさあ」

「――周ちゃんを助けられるような仕事がしたいって、あいつ。マジで叶えるとは思わなかった」


耳に、胸に、瞳に響いてくる。やさしい音がする。どこまでも熱くて、やわくて、まっすぐな音だ。


「ナオ、周ちゃんのこと、助けられてる?」


森山が笑っていた。

立ち上がって、手を招いている。何も言えないままの私に「いいもの見せてあげる」とつぶやいた。誘われるままに付き従って、一度も来たことのないところを歩く。


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