やさしいベッドで半分死にたい【完】
「ここ、10年前にでっかい市民ホールができて、はじめにチャリティコンサート? が開かれたんだ。周ちゃんがまだ海外で生活してた時に、たまたま来てくれたのが、ここ」
「泣きながら好きだって言うんだって、その女の子。ピアノ弾きながら、ぼろっぼろ泣いてんのに、練習やめないで、齧りついてんだって」
「あ……」
いくつもの場所で、弾くことだけを続けてきた。ずっと昔の記憶がある。温かい春の日で、けれど、施設の中は涼しすぎるくらいだった。必死に向き合っていた後ろから、ひどくささくれだった声が聴こえたことがあった。
「え、……うそ」
「わ、覚えてるんだ。すげえなあ。……南朋は、その女の子が、好きで好きで仕方ないピアノを、泣かなくても、笑って弾き続けられるようにしてやりたいんだと」
夜に溶けた声で、もう一度涙が込み上げてしまう。
どうしてそんなにもやさしい言葉を、私に捧げてくれているのだろう。まぶしくて、眩暈がしてしまいそうだ。
胸がくるしくて、しかたがない。
「ああ、泣かせちゃったね。ごめんごめん。……南朋は、周ちゃんに笑っててほしいの。わかる? 笑いながら、好きなこと、してほしいの。泣かせるやついたら、ぶっ飛ばすし、あんな風に夜道に一人で泣かせてるのが自分だって思ったら、たぶん土下座して謝ってくるよ」