やさしいベッドで半分死にたい【完】
10年前のチャリティコンサートの日、私はまだ13歳の少女だった。
口汚い罵り声も、遠回しな嫌味も、全部が突き刺さって、耐えることもできなかった。ひとしきり泣いて、結局ピアノの前に戻ることばかりを繰り返していた。
ピアノだけが、救いだった。
音を奏でるたびに、涙があふれてしまった。理解してくれる人も寄り添ってくれる人もいない。いつも敵だらけの世界で、一人、懸命に立ち尽くしていた。
思い通りになるものなんて一つもない。努力して踏ん張って、ようやく寄り添ってくれるのが、ピアノだった。
弾けるようになれば、うれしかった。みんなが褒めてくれた。ここにいていいのだと教えてくれた。
やさしい音が、和音みたいに柔らかく胸になじんで、いくつも音楽を奏で続けた。泣きたい日には、とくに弾き続けていた。生きがいだった。
音楽を、心の底から愛していた。
森山が消えた部屋で一人、寝転がって天井を見つめている。
あの日、泣きながら弾き続ける私の後ろにあらわれたのは、ライオンみたいな明るい髪の男の人だった。
あの時花岡は、すでに高校生だったのか。
背の高い、野生の生き物みたいな鋭い目をした人が、勝手に練習室に入ってきて、ひどく狼狽えたことを覚えている。