やさしいベッドで半分死にたい【完】

その人は興味もなさそうに私を見つめて、一言だけつぶやいた。


「泣くほど嫌なら、やめればいい」


笑えてしまう。

今も昔も、花岡はすこしも変わらない。いつだって、同じ言葉を捧げてくれていた。


変わったのは私だった。いや、そうじゃない。私は、大切なことを忘れてしまっていた。

きっと、ずっと見失ってしまっていたんだ。だから、心から音楽を愛する誰かを見た時に、たまらなく怖くなった。

音楽のことを、私はすこしも愛せていないのかもしれない。そのことに気づきたくなくて、必死になっていた。でも、もうずっと前に答えは私の胸の真ん中に息づいていた。


「泣くほど好きだから、続けてるの」


過去の自分が追いかけてくる。

こぼれた涙はどうしても熱くて、もう一度呼吸を繰り返す。


そうか、好きだったのか。


好きだからくるしいんだ。嫌いだからじゃない。

好きなのにうまくできない自分が歯がゆいんだ。10年前から、私は何一つ変わっていなかった。私は、藤堂周のまま、ずっと見失っていた。


「泣くほど、すき」


好きだから絶望できる。好きだから、くるしめる。好きだから、追い続けていられる。


こころのなかで、音が鳴り響く。

もうずっと前からここにあって、聴こえなくなっていた音だ。命のリズムが聞こえている。そうだ。いつも答えは簡単だった。

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