やさしいベッドで半分死にたい【完】
私だから、花岡は追いかけてくれた。私を愛する人がいるのだから、私だって、自分のこころを大事にしていいはずだ。
爪先から髪の先まで、力が漲ってくる。
何かが心のど真ん中から広がって、今にもはじけてしまいそうだ。
花岡は教えてくれた。
すてきなもの、すきなもの、たいせつなもの――あいするもの。
すべてがこの胸に馴染んで、突き動かしてくれる。
私以外にはなれない。私は藤堂周でしかない。私だから、あなたと出会えた。それのどこにかなしいことがあるだろうか。すべてが愛おしい。
私の好きなこと、私のやりたいこと。何度も胸の内でつぶやいて、体を起こした。流れっぱなしの涙に苦笑して、それでも立ち上がる。
ラックに積み上げられたCDが並んでいる。人差し指で触れて、ついに笑い出してしまった。
こんなにも愛してくれていたのか。
ずっと応援してくれていた。もらったメールの数々がよぎって、ついに爆発してしまいそうだ。
『この間のコンサートの音源を聴きました』
『体調は良くなりましたか?』
『指の調子はどうですか?』
『最近はずっとこの曲を聴いてます』
『無理せず、好きな時に弾いてください』
『いつまでも、待っています』
花岡が使っただろう机に向かった。勝手にペンを取って、立てかけられたノートにもう一度笑ってしまう。
「こんなもの、ずっと持っててくれたの……」
引き当てたのは、古い5線ノートだった。10年前、先生に空き時間にでも作曲をしてみてはどうかと言われて、結局書きもせずに練習室に置いてきたノートだった。表紙に自分の名前が書き込まれている。