やさしいベッドで半分死にたい【完】
あなたのうでに、かえりつきたい
やさしいもの、すきなもの、あいする匂い。すべてを抱きしめて、必死で書き殴っていた。
全部忘れたくなくて、音に閉じ込めようと躍起になっている。まだ、まだ足りない。いくつも思い込んで書きつけていく。
暑苦しいくらいの愛かもしれない。
技巧がなんだ。キャッチーなメロディラインがなんだ。
全部どうでもいい。
誰かに愛されようと必死になって、自分を見失ったりしなくていい。周りの目を気にして、好きでもない音を作る必要もない。
ただ、私であればいい。
この場所で精いっぱい抱きしめたすべてを、私の思う音で表現できればいい。
頭がぐらぐらしている。今までになく集中しきっていた。まるで、練習を続けて倒れてしまったころの自分みたいだ。
熱中して、いつも迷惑をかけた。
好きで仕方がなくて、追い続けていた。体が疲れても知らんふりして走り続けていた。
「あまねっ……!」
いつも、助けに来てくれるのは、ただ一人、あなただった。
声が鳴って、張り詰めた呼吸がはじける。
息を吐いたら、誰かの熱い体に抱きしめられていた。
「周」
もう、呼んでくれないものだと思っていた。その人は、何よりも大切な言葉のように私の名前を扱って、やさしく吹き込んでくれる。
もう、すべて聴こえてしまっているのに、花岡はそんなことなど全部無視して、私の耳元に囁きかけてくれていた。