やさしいベッドで半分死にたい【完】
あなたのうでに、かえりつきたい

やさしいもの、すきなもの、あいする匂い。すべてを抱きしめて、必死で書き殴っていた。

全部忘れたくなくて、音に閉じ込めようと躍起になっている。まだ、まだ足りない。いくつも思い込んで書きつけていく。

暑苦しいくらいの愛かもしれない。


技巧がなんだ。キャッチーなメロディラインがなんだ。

全部どうでもいい。

誰かに愛されようと必死になって、自分を見失ったりしなくていい。周りの目を気にして、好きでもない音を作る必要もない。

ただ、私であればいい。

この場所で精いっぱい抱きしめたすべてを、私の思う音で表現できればいい。


頭がぐらぐらしている。今までになく集中しきっていた。まるで、練習を続けて倒れてしまったころの自分みたいだ。

熱中して、いつも迷惑をかけた。


好きで仕方がなくて、追い続けていた。体が疲れても知らんふりして走り続けていた。


「あまねっ……!」


いつも、助けに来てくれるのは、ただ一人、あなただった。

声が鳴って、張り詰めた呼吸がはじける。

息を吐いたら、誰かの熱い体に抱きしめられていた。


「周」


もう、呼んでくれないものだと思っていた。その人は、何よりも大切な言葉のように私の名前を扱って、やさしく吹き込んでくれる。

もう、すべて聴こえてしまっているのに、花岡はそんなことなど全部無視して、私の耳元に囁きかけてくれていた。

< 197 / 215 >

この作品をシェア

pagetop