やさしいベッドで半分死にたい【完】
花岡の額から、酷い汗が流れていた。
湿った髪が首筋に擦れて、どれだけ焦らせてしまったのか気づいてしまう。走ってきてくれたのだろう。振り向くこともできないくらいに、つよく抱きしめられていた。
窓の外から、光が漏れ出している。夜が明けてしまったようだった。
気づかずに、一心不乱に書き続けていた。心配をかけても無理はない。
「逃げられたかと思った」
どこか、寂しい声だ。胸が詰まってしまう。こんな声にさせているのが自分だと思うと、たまらなくくるしくて、どこか、愛おしい。
ちっぽけな私の体に、必死でしがみつく指先に触れる。ぴくりと動く指は、いつもと同じくあたたかいままだ。
「もう、逃げませんよ」
静かにつぶやいた。もう、逃げるのはたくさんだ。
たくさん逃がしてもらった。その先で、たくさんの好きなことを見つけた。
花岡はいくつも差し出してくれた。当たり前に私の生活にあるものなのだと言わんばかりに差し出して、いつも私の瞳を覗き込んでくれた。
私のやりたいことは、いつも一つだけだ。
「もう、逃げないって決めたんです」
目の前のノートを見て、花岡が耳元で苦笑している。私が何をしていたのかは、きっとわかってしまっただろう。やわいため息が耳に住み着いた。