やさしいベッドで半分死にたい【完】
花岡南朋という男は、そういう人なのだと理解するのに十分な証拠があった。

同時に、あの電子メールを送り続けてくれている素敵な貴女が、やはり、花岡南朋という男性なのだということを理解した。

花岡は、長らく私を、見つめてくれていた一人だ。



「藤堂」


誰かが囁きかけてくれている。こんなにもやさしい声を声帯に擦らせることのできる人がいるのかと、ぼんやりと思っていた。

肩がゆさぶられていた。

久しぶりに、やさしい夢を見ている。だから、もっと深く眠ってしまいたかった。ただそれだけを思って、寝返りを打つ。


「うんん……」


声を上げているはずなのに、自分の声がよく聞こえない。あやふやな輪郭が少しずつクリアになっていく。何か、重要なことを忘れようとしているような気がした。

誰かの匂いがする。ひどく安心する匂いだ。いつも守ってくれる人の香り。


「起きろ」


たっぷりと甘く囁かれて、甘やかされているのだと自覚する。その人が起きろと声をかけるのであれば、もう十分に起きなければならない理由が整っていた。そんな風にさえ思えた。


もう朝が来てしまったのか。

ずいぶんと都合のいい夢を見ていた。誰かが私を連れ出してくれる、願望のような夢だ。起きたら絶望が待ち構えている。わかるから目覚めたくない。
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