やさしいベッドで半分死にたい【完】
振り返ったら、すぐ近くで花岡の瞳がきらめいていた。まぶしすぎるくらいの憧憬を乗せた色で、私を導いてくれる。
「私、好きだから苦しい道でも進んでいけるんです。……泣くほど好きだから、続けているんです」
あの頃と同じ言葉をつぶやいたら、花岡がどこまでもやさしく笑ってくれた。
頬に指先が伸びる。そのやさしさで、瞼が下りてしまった。濡れた頬を撫でてくれる。
ゆっくりともう一度瞼を上げて、目の前の人を見た。
ずっと大切にしてくれていた花岡に、聴いてほしい。他の誰のための曲でもない。花岡に聴いてほしくて書き上げた曲だ。
「ピアノが、弾きたいです」
こころからなだれ込んで、祈るように囁いた。花岡は、いつだって笑いながら私に手を差し伸べてくれる。
今日も同じく立ち上がった花岡が、私に向かって指先を差し出してくれていた。
「……そりゃあいい。お安い御用だ」
触れたら、まっすぐに立ち上がらせてくれる。空いた手にノートを持って付き従えば、あっという間に一階までおろされてしまった。
「少し出る」
「はいはい。あんたこんなかわいい子、引っ張んじゃないよ」
「うるせ」
どたばたと玄関に押し込まれて、後ろからおばあさんの声が鳴った。ちらりと顔を出せば、昨日と同じく、やさしい瞳で見つめてくれる。