やさしいベッドで半分死にたい【完】
「あまねちゃん、いってらっしゃい。気ぃつけんだよ」
送り出すとき、いつも言ってくれていたのだろう。胸の内に熱が燃え広がって、消えそうにない。いつでもこの場に帰ってきていい。そう言ってくれているような気がした。
「おばあさん、行ってきます」
「ん、いい返事だね」
秋空は晴れ渡っている。
市民ホールは、この町には似合わないくらい近代的な造りだった。初めてここに来たときは、どんな場所にこの施設が置かれていたのかも知らなかった。
あまりにも無知だったと思う。
花岡の手に引かれて、あっさりと不法侵入してしまった。不思議なのは、この町のすべてが何のセキュリティもなく、入り放題になっていることだ。
目の前を歩く人の指をきゅっと握ってみる。振り返ったその人は、いつもと同じように首をかしげて私を見つめてくれた。
「もしかして、脅して入れるようにしましたか?」
茶化すつもりで言えば、花岡の目が見開かれた。
きっと、この町でも有名な不良だったのだろう。
昨日の言葉と10年前の記憶を手繰り寄せて、どうしてあそこまで頑なに、私がそのことに触れるのを嫌がっていたのか、わかってしまった気がする。