やさしいベッドで半分死にたい【完】
他の誰かに、どんなに否定されても、愛せるかは自分次第だ。
花岡ともう一度目が合う。
椅子に腰かけて、息を整えた。胸の内に広がるすべての音を、ただ、花岡に伝えたい。それだけの思いで私はここへきた。
まっすぐな瞳に、覚悟を打ち明ける。
「私のやりたいこと、やっぱり、ここにあるみたいです」
一度も奏でたことのない曲は、私の頭にあるとおりに流れていく。
夢中で鍵盤を撫でる。
やさしく触れて、弾かれる音に体を乗せた。空っぽの体に何かが染み渡るような感覚がある。
ずっと、こうしたかったのだ。そう思わせるには、十分な感触だった。
頑張る理由は、ずっと前から私の中にあった。
好きだから、ずっと頑張ってこられたのだ。すきだからやめられなかった。すてきな呪いがかけられた私のまま、今もこの場にしがみついている。
好きだ。好きだ。好きでいっぱいの世界にいたいから、私はまだ、走り続けられる。
不思議と、指先が震えることは一度もなかった。
緊張も恐怖もおそれもない指先が、ただ好きな音を乗せていく。こんなにもやさしい曲が、私の胸の内に広がっていたのか。
単純な喜びで、世界が彩られていく。
花岡がくれたやさしさで、もう一度私は、私になりたいと思えた。