やさしいベッドで半分死にたい【完】
「藤堂周! うちの町の自慢だ~!」
誰が叫んだのだろう。どんな高価なチケットを払った人も、そんな言葉を言ってくれたことはなかった。ただの消費されるものでしかないと思っていた。
そうじゃなかったのか。
いつも大切に慈しんでくれる。
どうしてだろう。いつも泣きたい。大切にしてくれるやさしさに触れるたびに、自分自身のこれまでの道を、肯定できる気がする。
途方もなくうつくしい光景だった。
「……わ、たし」
立ち上がって、体がこぼれ落ちそうになる。一人ひとりのやさしい瞳を見つめるだけで、耐えられずに涙がこみあげてしまう。
めいっぱいに膨れ上がった涙が頰に流れかけたとき、誰かが私を抱きしめていた。
やわらかい匂いで、胸がしびれる。あたたかいやさしさで、こころが震えてとまらなくなる。
もうずっと、そばにいてくれた人だ。私の、愛してやまない人。
一言もしゃべらないまま、引っ張られてしまった。
まるですべてから隠すように舞台袖から裏手に出て、誰の声も聞こえなくなったところで、もう一度抱きしめられる。
帰りたいところは、たくさんあった。いとおしい気づきで、目が回ってしまう。
「結局お前は、俺だけのものにはならねえな」
「は、なおかさ」
「泣き顔くらい、俺だけのものにしておけよ」