やさしいベッドで半分死にたい【完】

「『泣くほど嫌ならやめればいい』なんて、誰一人言ってくれませんでした。忘れて良いとか、好きなことだけすればいいとか、そんなこと、花岡さんしか言ってくれないんです」

「でも、花岡さん」


私はたぶん気づいていた。その言葉には、ひねくれたパワーがある。

花岡も知らない、素敵な力が秘められていた。その音を聞くたびに、私はもうすこし、走り続けてみたくなる。


「あなたが逃げても良いって言ってくれるから、私は戦いたいんです」

「藤堂、」

「何度でも、その言葉を言ってほしくて、その言葉が聞きたくて……、私、どうしてか頑張れちゃうんです」

「花岡さん……、南朋さんが、私の音楽を大切にしてくれるから、だから、もっと大切にして、もっと愛してみたくなるんです」

「あなたのせいで、好きがやめられないんです」


花岡が真剣に向き合うから、めげずに続けてきた。

どんなにくるしくても、へこたれても、体を壊しても。

花岡の目にかなう人間でいたくて、必死で続けてきた。

義務とか、期待に応えたいとか、そんなことじゃない。花岡が愛してくれる音楽が、たまらなく好きだからだ。


花岡の腕に抱かれるだけで、心音がやさしいリズムを刻んでくれる。
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