やさしいベッドで半分死にたい【完】
花岡の胸に耳を寄せたら、この世の奇跡みたいなやさしいメロディが耳殻に擦れた。


「藤堂」

「周です」

「は?」

「周って呼んで下さい」


あなたのそばにいたい。

わがままな声が胸の内にくすぶっていた。たくさん迷惑をかけて、放してあげなければいけないと心の底から思った。けれど、同じくらい、私は――。


「……あまね?」


もう十分にしっかり聴こえているのに、いつもと同じように耳元に吹き込んでくれる。

この世で一番うつくしい言葉をつぶやくように、大切に発音してくれる。その音を聴くのが、いっとう好きだ。

言葉になんてできない。音にしたら、あんなにも長い曲になった。ただ、すきでたまらない。


「はい。南朋さん」


まっすぐに見つめて返事を返したら、花岡の目があまく揺れた。その様を永遠に見ていられる場所にたどり着きたい。


「耳は? ほんとに治ったんだな?」

「はい。治りました。南朋さんの愛のパワーかな? なんちゃって」


恋愛も交渉も、駆け引きもよくわからない。思った通りに言って、急いで茶化してみる。

私の行動を見て、ついに花岡が噴き出すみたいに笑った。やさしい音がする。ずっと鳴り響いて、やみそうにもない。


「そうに決まってんだろ」
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