やさしいベッドで半分死にたい【完】

どこまでもやさしく、誑かすように囁いた。頬を撫でる指先の柔らかさで、眩暈がしてしまいそうだ。


「なんだ」

「そんな、あまあまなことを言ってくれるとは、思わなくて」


散々振り回したのに、花岡は気にした素振り一つ見せずに笑っていた。

慣れた指先が、私の耳に髪をかけてくれる。至近距離に見える瞳はいつもこんな風に私を見つめて、囁いてくれていたのか。

すべてを聴きとれるようになってよかった。心の底から思っている。もう、花岡をかなしませたりしたくない。


「何年惚れてたと思ってんだよ。浮かれるに決まってんだろ」

「……何年ですか」

「訊くな。……似たような境遇だと思った。親にほったらかしにされて、慣れない環境にほっぽり出されて……、けどお前は、めげずにずっと打ち込んできただろ。何を強制されても、できないことばっかでも、恨まないで、ピアノを大事にしてきた」

「……はい」

「まぶしかったんだ。めそめそしながら、必死こいて譜面追って、間違えたらまた初めから弾きなおして、褒められても満足しねえし、ずっと上だけを見てた」

「……メールで、日本に来たいって言ってたのを見て、柄にもなく舞い上がった。周が心から好きになれるもの、周の帰る場所を作ってやりたかった。ただそれだけだ」

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