やさしいベッドで半分死にたい【完】
「んー、あ、さ」
「襲うぞ」
「……っは、は、はな……」
囁き落とされて、急激に意識が起き上がった。膝を打たれて足が反射を起こすみたいに飛び起きて、すぐ目の前で見つめている人に、すべての動作が止まってしまった。
ひどく静かなのに、うるさい気がする。じんわりと首の裏に熱が集まっているような気がした。
「は、はなおか、さん」
うまく声を紡ぎだせているだろうか。バクバクと振動している胸を押さえて、真顔のままこちらを見つめる怜悧な瞳と視線がかち合った。朝じゃない。夕方だった。
夕陽に刺さった優しい色の頬が、私に囁きかけている。
「ついたぞ」
随分と刺激的な起こし方だ。
相変わらず耳元で囁くことをやめない人に、勝手にどぎまぎしてしまう。それ以外に方法がないことは分かっているから、ただ俯き加減に首肯した。
ぱっと離れていく。その距離で、花岡の匂いを感じさせられてしまった。
夢うつつに、ひどく安心する匂いだと思った自分を知っている。こんなにも心を許してしまっていたとは、自分でも驚きだ。
シートベルトを外した花岡が、ドアロックを解除して車の外に出た。様子を見て、同じようにシートベルトに手をかける。
外してドアを開こうとしたら、すでにこちら側に回ってきたらしい花岡が、開かれたドアの先で手を差し伸べてきていた。