やさしいベッドで半分死にたい【完】
「いつも迷い続けているので、毎日、帰ってきてもいいですか」
あなたのやさしさに触れたいから、もうすこし歩き続けてみよう。
ひっそりと決意したら、花岡はおかしそうに笑って、たっぷり囁いてくれた。
「帰る場所なんかじゃなくていい。……いつも俺だけ、そばに置いとけ」
はじまりの日と同じ要求に、今度こそ二人して笑ってしまった。
頷いて、もう一度唇に触れられる。それだけですべてが好きになれそうだ。
単純なんだなあ。
一人で納得してしまった。すぐ近くの愛おしい人が、私の髪を慈しみながら、歌うようにつぶやいていた。
「いい曲だった」
絶対に、過剰な称賛をしたり、ほめそやしたりしない。いつも、シンプルな言葉でそこにあった。
何よりもただしく、私を見つめてくれているのだと信じられる魔法がかけられている。花岡の言葉が聞きたいから、私はまた、音楽を好きになってしまうのだろう。
「ふふ、ありがとうございます。もう、誰に微妙だって言われても、気にしません」
「それがいい」
「だって、絶対南朋さんが大事にしてくれる気がするんです」
あなたが大切にしてくれるから、私も自分を大切にしたくなる。頑張らなくていいと言われるたび、そのやさしさに触れる幸福で、私はまた立ち上がりたくなる。