やさしいベッドで半分死にたい【完】
有無を言わせず、惑う指先を攫われてしまう。くん、と力を籠められれば、すとんと体ごと車から落ちる。しっかりと地面に着地して、自分がどこに来たのか、ようやく理解した。
「ここ……」
それは、学校のような建物だった。
紅葉した木が植わっている敷地内には、学生と思しき姿はない。私の耳が機能していたとしても、きっとわずかな風と木枯らしの音以外は拾うこともなかったのではないだろうか。そう思えるような、静かな場所だった。
ゆっくりと私の手を引いていた男が、躊躇いなく顔を寄せてくる。すでに慣れたような指先が、私の髪を耳にかけた。耳の皮膚をやさしくなぞるような手つきに、ざわざわと背筋が粟立ってくる。
「俺が通ってた高校」
「高校……」
「来たいって、言ってただろ」
それ以上返事を聴くつもりのない人が、もう一度私の指先を引っ張って歩き出した。つま先が滑りだしてしまう。
あっけなく後に続いて、花岡南朋が通っていたらしい高校の玄関に侵入した。
確かに、いつかの私はそのように文字を打ち込んだ気がする。
“貴女の故郷の様子が見てみたい。学校や、近所の公園や、貴女が心を動かされた場所を見てみたいです。いつか行くことができればいいのですが。貴女が生きる町で、一緒に学生時代を過ごしてみたかったです”
「ここ……」
それは、学校のような建物だった。
紅葉した木が植わっている敷地内には、学生と思しき姿はない。私の耳が機能していたとしても、きっとわずかな風と木枯らしの音以外は拾うこともなかったのではないだろうか。そう思えるような、静かな場所だった。
ゆっくりと私の手を引いていた男が、躊躇いなく顔を寄せてくる。すでに慣れたような指先が、私の髪を耳にかけた。耳の皮膚をやさしくなぞるような手つきに、ざわざわと背筋が粟立ってくる。
「俺が通ってた高校」
「高校……」
「来たいって、言ってただろ」
それ以上返事を聴くつもりのない人が、もう一度私の指先を引っ張って歩き出した。つま先が滑りだしてしまう。
あっけなく後に続いて、花岡南朋が通っていたらしい高校の玄関に侵入した。
確かに、いつかの私はそのように文字を打ち込んだ気がする。
“貴女の故郷の様子が見てみたい。学校や、近所の公園や、貴女が心を動かされた場所を見てみたいです。いつか行くことができればいいのですが。貴女が生きる町で、一緒に学生時代を過ごしてみたかったです”