やさしいベッドで半分死にたい【完】
過去の自分の率直な言葉を、花岡はどんな気持ちで見ていたのだろう。特におそれることなく不法侵入した花岡に焦って、つよく立ち止まった。私の行動に気づいた花岡が振り返る。
一体、自分はどれくらいの声量で話をしているのだろうか。聞こえないというのは、あるものが見えない世界のようだ。こわごわと唇を開く。
「……勝手に、入っていいんですか」
どんな声だっただろうか。花岡は、私の顔をじっくりと見つめてから、耳元に顔を寄せてくれる。
あと何度こうして面倒な私に、音を吹き込んでくれるつもりだろう。
いつまでこの逃避行は続けられるのだろう。わからないことばかりの世界に立ち尽くしている。
「廃校なんだ。……今は、町の役場が管理して、宿泊施設にしてるらしい。よくあるだろ。今はそういうのが流行ってるらしい。同期に言ったら、快く貸してくれた」
「そう、なんですか」
たしかに、廃校というにはあまりにも綺麗すぎる。いくつかリノベーションされているらしく、中はぴかぴかに磨き上げられていた。
同期というからには、やはりここは花岡の故郷らしい。この街に来るまでの道を覚えていられなかったことがすこし残念だ。
「別に脅してねえからな」
「え?」
「脅して借りたわけじゃない」
「ああ? はい」