やさしいベッドで半分死にたい【完】
ぶらぶらと歩いている。行く先を決めていないのかもしれない。まっすぐに歩ききって、ついに重たそうな扉の前で止まった。
ためらうことなく引き戸を引いた花岡に続いて、鼻先にゴムのような、湿ったカビのような、形容しがたい匂いが香った。
フローリングのような床には、いくつものラインが引かれている。ついさっき履き替えたスリッパで地面を擦ってみれば、そのラインの数々の上には、すでに何かしらのコーティングが施されて、触れることもできないものになっているらしいことを知った。
このコーティングはどうやって作られたのだろう。感慨深く思っているうちに、花岡の指先が離れる。
失った熱を探るように、すぐに顔が持ち上がってしまった。視界いっぱいに、体育館の景色が広がる。
首を傾げれば、花岡は『ま、て、』と唇を大げさに動かした。あまり表情を動かさない人だと思っていたから、その顔を見ただけでも驚いてしまう。
どうしてこんなにも表情豊かな人なのだと気づかなかったのだろう。
一年間ずっと一緒に仕事と向き合っていたはずなのに、不思議なことがあるものだと思った。私が周りに気を遣わなさ過ぎていたのか、それとも花岡が隠していたのか。