やさしいベッドで半分死にたい【完】
何一つ音のない世界で、呆然と立ち尽くしている。体育館の奥へと消えてしまった花岡を探すのをやめて、とりあえず体育館の真ん中で立ち止まった。
体育館という施設は、一度として中に入ったことのない場所だった。
父と母は、必要以上に私の怪我を恐れる人だった。いや、私のそばに存在するすべての人間が、そのことを一番に恐れていただろう。
何度もきつく禁じられた。同じ歳の子どもたちと遊ぶことすら禁止されていた。
今ならわかる。
きっと、芽生えそうな才能という、不確かな何かを潰さぬよう、誰もが必死になっていた。神童と呼ばれたとき、一番に喜んだのは父と母だった。そのためだけにウィーンに移住することを決めた人たちだった。誰よりも私の可能性を信じて、そうして――。
「藤堂」
「ひゃあっ」
知らず知らずに俯いていた。音がないからか、気配すら感じられない。
いつも聴力を研ぎ澄ましていたから、どんな音にも敏感で隣の人が生活している音すら気になるようになって引っ越しを決意したほどだった。
今住んでいるマンションは完全防音で、私が音を立てなければ、どんな音もしない。
神経質になっていたと気づいたのは、たった今だ。私はあの時から、ゆるやかに精神を患っていたのかもしれない。
「驚かせたか」
「い、いえ」
「やりたかったんだろ」