やさしいベッドで半分死にたい【完】

ころころと転がり始めたボールを拾い上げた花岡が、綺麗な放物線を描くようにそれを投げてくる。初心者への計らいのような球の軌道にようやく追いついて、もう一度手元にボールが渡る。

さっきよりも、少し重たくなっているような気さえした。

ボールをまじまじと見つめている間に、すぐ横に花岡の影が映った。見上げて、すでに慣れてしまった距離に顔を近づけられる。

この人のやさしい香りに包まれるなら、音を奪われてよかったのかもしれない。夢遊病患者のように、誰か知らないものに動かされたような感慨が胸を打った。


「1on1って知ってるか?」

「あ……、一応」

「勝負するか」

「え? 花岡さんと私ですか?」

「他に誰かいんのか?」


言われるとおりだ。しかし、さっき見た通り、花岡は間違いなく玄人だ。

考えあぐねている間に、かすかな笑い声が耳にぶつかる。その柔らかさで、思わず囁き落とされている右耳を手で覆った。


「は、なおかさん、くすぐったいです」


抗議するように告げて、せっかく渡されたボールを落としてしまったことに気づいた。軽く唇の端を持ち上げた人が、あっさりボールを拾い上げる。


きっと音が聞こえていれば、くつくつと笑っている音色が耳に届いていたことだろう。
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