やさしいベッドで半分死にたい【完】
感情を失った能面のような女が一人、部屋の入口に立ち尽くしている。
ほとんど聞こえない耳は、真横で恋人のように囁きかけてくれる音くらいしか拾ってくれないらしい。ひどく不便だ。どうすることもできない。
ため息を吐き下ろして、部屋の中に進んでいく。
真ん中には、常に調律をぴったりと合わせていたグランドピアノが置かれていた。無意味に鍵盤に触れて、一音奏でてみる。やさしく触れて、次は叩きつけるようにつよく鳴らしてみる。その音がかすかに鳴った気がした。
この程度なのだ。
私に残された現実は、たったその程度だった。
崩れ落ちて泣き叫ぶべきなのか、それとも怒り狂って鍵盤を殴ればいいのか、よくわからなかった。どちらでもない。
たとえるならば、乾電池を抜かれた玩具みたいな、そんな気分だ。
そっと作業台の前に座って、パソコンを立ち上げる。
最新機器はすぐに全世界へと私をつないでくれる。表示された電子メールのアイコンを二度クリックして、一か月前に来ていたメールを探り当てた。
自分が何をするつもりなのか、まったくよくわからない。
ただ、私のすべてが終わってしまったということだけがただしくて、それ以外はすべてを間違えているような気がした。