やさしいベッドで半分死にたい【完】
「―――」
「……―――――」
何かを話しているのは分かっても、会話の中身までは分からない。ちらりとこちらを見た人が、私に向かって何かを話しかけようとしているのが見えた。
声が聞こえないことを伝えようとして、目の前に大きな壁が立ちはだかる。それが花岡の背中だと気づくまで、しばらく時間が必要だった。
視界いっぱいに広がって、何一つ言えないまま、次に見た男性は、ひらひらと手を振ってくれていた。
花岡が何かしらの説明をしてくれたのだろう。
手を振り返そうとして、いまだに花岡と手をつないだままになっていたことに気づいた。慌てて解こうとして、つよく掴まれる。
「は、なおかさん」
抗議するように囁いたのに、まったくもって無視だった。さっきまでと同じように声を上げたつもりだったから、聞こえていないことはないだろうと思う。
ますます触れる指先に力を込められたから、結局諦めて、頭を下げることにした。そもそも知り合って間もない人に手を振り返そうとする必要もなかったのかもしれない。
気持ちを切り替えている間に、目の前の男性がにっこりと微笑んだのが見えた。その人が、花岡の友人らしい。
「(南朋が脅すから、後輩ビビッてやばかったんだよ)」
「(知らねえよ。さっさとお前も帰れ)」
「(つっめた!? 彼女にたいする対応と全然違う……)」
「(帰れ)」