やさしいベッドで半分死にたい【完】

「(……ういーす。じゃあ、ええと、彼女ちゃん? 楽しんでってね~)」

「……? あの」


言葉を返す前に、苦笑した男性が教室を出て行ってしまった。二人だけの世界に戻される。

かすかに食べ物の匂いが香っていた。調理室の台の上に、二人分のトレーが置かれている。


「……給食? ですか?」


まるで、ドラマで見るようなものだった。配膳されたものを見て、呆然としてしまう。

日本の学校で、誰かと一緒に給食を食べる機会が巡ってくるとは思わなかった。驚かされることばかりが起きている。

花岡は、私のつぶやきを首肯して、椅子の前まで私を導いてくれた。


チャリティーコンサートへ出向いたときに、うつらうつらと舟をこいでいたらしい小学生の男の子の話をしたことがあったような気がする。そのときの花岡は「給食食べて眠くなったんじゃないですか」と言っていたと思う。

私はその言葉に、「給食、食べてみたいですね」と返していたかもしれない。

曖昧な過去だった。


今問いただしたところで、花岡は答えるつもりもなさそうだった。この逃避行の目的に勘付いてくる。たった数時間で理解してしまった。


花岡は、私のできなかった過去を、塗りつぶそうとしてくれている。


「食うか」

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