やさしいベッドで半分死にたい【完】
急激に重たくなった箸を持ち直して、最後の一口を口の中に放り込んだ。始まりがあれば、必ず終わりがある。私たち人間はそれを認めることがどうしようもなく、おそろしいのだろう。
無音の世界の中で、終わりのことを考えている。
花岡が何かを口走ろうとしているのを見ながら、ポケットに入っているものが動いていることに気づいた。反射的に手で押さえて、それが自分自身の携帯電話であることに気づく。
長らく存在を忘れていた。
彼も一度として取り出すことがなかった。マネージャーとしてそばに在ったときは肌身離さず持ち歩いていた人が、綺麗さっぱり忘れているみたいに振舞っている。そういう努力で、今日の私の笑顔が守られていたのだろう。
花岡なら、そうして守ってくれたのだろうと思えてしまうから摩訶不思議だ。
言葉を奏でようとしていた唇を閉じた人の目を見て、曖昧に笑う。あんなにも体育館で、けらけらと笑っていたくせに、どうやって取り繕えばいいのかわからない。
「ごめんなさい、ちょっと、連絡が」
言いながら取り出して、画面に電子メールの通知が入っていることに気づいた。
まさか花岡が相手ではない。
しっかりと仕事上の付き合いをしている社会人から来た連絡だということを確認している間に、握っていたはずの携帯が消えてしまう。
「え……」