やさしいベッドで半分死にたい【完】
何度瞬きしてもない。
唖然として、隣に座っている人を見つめた。当然私の携帯を掴んでいる。そんないたずらを仕掛けられたことがなかったから、ただ言葉もなく見つめてしまった。
目が合った花岡は、あっという間にパンツのポケットに私の携帯をしまい込んでしまった。
「没収」
囁き落とされる。その速度で心臓が鳴った気がした。恐る恐る、すぐそばで瞬いている瞳を見あげる。美しい瞳だった。
「はなおか、さん?」
「俺以外のこと考えんな」
何もない世界に、花岡の声だけが響いた。まっすぐに心臓に突き刺さって、呼吸が怪しくなる。
何度か言われているのに、私はしっかりとその意味を理解できていなかったのだと思う。
花岡は、本気で私を世界から離脱させようとしている。音のない世界のくせに、心音がうるさく聴こえている気がした。
吸い込まれてしまう。
錯覚じゃなくて、本当にそうだと思い込んだ。花岡の視線はまっすぐすぎて、まぶしい陽の光に触れてしまったおばけみたいに、焼かれてしまいそうだと思った。
「もう全部忘れちまえよ」
「全部……?」
「ん。煩わしいもんにお前がやさしくする必要なんてねえし」
「わずらわしいもの?」
「お前がやりたいことだけやりゃあいい」