やさしいベッドで半分死にたい【完】
すべてを肯定するような音が鳴った。そんなことを、誰かに言われるとは思ってもいない。
期待と欺瞞ばかりが渦巻く世界で、一人で立ち続けなければならなかった。それはどうしようもなく冷たい生き方で、本当はもっと普通に生きられれば良かったと思ってしまっていた。
戻れないくせに、代われないくせに、どうにかして、私は、私ではない何かになろうと必死になっていた。
私は、私という人間が心底恐ろしい。
「やりたいこと……」
復唱するばかりで、何一つ会話をなせていない。ただ、理解するだけで精いっぱいだった。やさしい声に縋りつきたくなる。
「やりてえって言ってたこと、他も全部やるか」
「え?」
「藤堂が、飽きるまで。まずはそうだな……。秋だから、紅葉狩り行くか」
軽い調子で言われた。
紅葉狩りをしたいとメールに打ち込んだ記憶がある。花岡が送ってくれたメールの添付画像に、紅葉した森の風景が残されていたことがあった。その画像は、いまだに私のパソコンの壁紙に使用されている。
何度も行ってみたいと思っていた。そんな時間も体力もないからと諦めていた。
叶えてくれるのか。
都合がいい夢だけを見ている気がする。
終わりが来ることが恐ろしくなって、花岡の袖を無意識に掴んでいた。聞きたくないような、聞いてみたいような言葉を選んで、無音の世界に放ってみる。
「……いつまで、続けるんですか?」